【墓碑にしるす言葉集】

[墓碑にしるす言葉には、墓碑の中心にしるす言葉と、墓碑の中心に添えるようにしるす言葉とがあります。また、墓碑の中心にしるす言葉が二つの中心に分けられて対比的に配置することもできます。中心にしるす言葉が少し長い句だったり、もっと長い文だったりすることもあります。長い文の墓碑銘は、墓誌碑にしるしたり、短歌や俳句などは墓誌碑文とは別に側碑を立ててしるされています。

伝統的な日本の家墓では、「〇〇家」「〇〇家之墓」「〇〇家廟」といった言葉が墓碑の中心にきます。浄土真宗や日蓮宗では、「南無阿弥陀仏」「南無妙法蓮華經」という言葉が中心に置かれ、「〇〇家」という固有の家名は基台にしるされるのが普通です。

近年さかんに造られるようになってきたお墓では、家名を中心にすえるよりは、自分にふさわしい象徴的な言葉を選らんんで中心にしるし、家名はそれと対比的な中心になるようなしるし方をする事例がたくさんみられるようになってきました。

しかし、自分にふさわしい言葉を選ぶためには、ゆっくりと考え、調べることもして、墓碑での構成や書体も考えて、一つの言葉に絞っていくのが良いでしょう。霊園を歩いていますと、同じ墓域の一角に「愛」としるされた墓碑がいくつも並んでいるなどがあったりします。それを見て、もうすこし言葉と墓碑の姿に固有さがあったらと感ずることがありました。

以下に紹介する言葉は、墓碑にしるされた言葉の実例を実際に歩いて調べた結果に、様々な文献にしるされた実例と、選択するのに参考になりそうな言葉などを取り上げてまとめてみたものです。

(1)一字の言葉

夢・空・無・和・愛・心・幸・祈・花・絆・眠・逢・偲・楽(樂)・寝(寢)・静(靜)・憩・遊・覲・魂・治・厳(嚴)・霊・輝・真(眞)・道・昴・願・喜

【補足】安・慧・縁・穏・雅・海・幻・歓・希・悦・円(圓)・仰・玉・欣・玄・光・香・紅・受・珠・樹・曙・咲・照・顕・彰

憧・哀・悲・浄・清・信・礎・悼・然・念・賦・風・福・佛・遍・芳・命・耀

(2)二字以上の言葉 (漢字)

自然・歸自然・無限・旅へ・佛心・夢想・清心・野ノ墓・一期一会・解脱・喜悦・寛恕・清染・逍遥・平安・諸法無我・春夏秋冬・悠悠郷・樹心流惰・呑風・偕老同穴・風定花猶落・冩樂樹・春秋有楽・勇魚(釣りの絵とともに)・趣道(趣味の絵とともに)・華観音(像と合わせて)

【補足】幻花(華)・妙香・天受・珠光・樹光・幻春・一如・一笑・一圓相・含笑・光明遍照・信愛・即浄・愛存・泰久・喜悦・大虚・大悲・不二・不空・風韻・風雅・是夢・甘露・拈華微笑・蓮華童子・一炊夢・放下着・牡丹一日紅・思火・序破急・天魚(天の魚=星、ドラヴィタ語ヴィン・ミーン)

(3)二字以上の言葉 (仮名まじり)

こころ・やすらかに・心やすらかに・やすらぎ・やすらぎの碑・ありがとう・きみといつまでも・心静和む・和、ほほえみ・いい人生でした・きぼう

(4)一つの句になった言葉

「やすらかにここに眠る「さわやかに せいいっぱい」「父なる海とともにあり」「苦しみがあり小さな喜びがあった」「花こぼれてなほ薫る」「よき友に 囲まれて たくさんの 思い出と ときめきをありがとう」「香木も 小粒の 実から」「愛でにし者とやがて会いなん」「悠遠の彼方で会わむ いつの日か」「風のように 雲のように 天に抱かれて眠る」「風になれ 雲になれ 星になれ」「暫くのわかれ  また団欒」「幸せはいつも自分の心がきめる」「われ山にむかひて目をあぐ」「いつか 又会える うれしさ」「やさしさと 勇気と 夢をもって 愛しいあなたに ◇◇」「いつも なくなってしまったからだ 失くしたものが何か おもいだすのは」「哲学は世を照らし 夢は未来を開く」「謝天恩 世の一隅に温もりを心す」「富士こそわがいのち」「会いに来てくれて ありがとう あなたの幸せを祈っています」「光は満ち、緑は潤い、心は謐かなり」「我らの国籍は天にあり」「激愛 友愛 風愛」「蓮花の華に幸あれ」

(5)俳句・短歌・詩

「木守柿 夢を残して 失せにけり ◇◇」「花ふくらめば 影 やはらかに 浜田章介」「碧く澄んだ広いもの それは 海だ それより広いものがある それは 空だ それよりもっと広いものがある それは 人が愛する心だ 加東大介」      「夢 私はいま夢の中にいる 過ぎし日の夢 これからの夢 夢は果てしなくつづく もう急ぐことはないのだ のんびり夢を楽しもう◇◇・◇◇」「空を見上げてごらん ゆったり 悠遊 雲もゆうゆう 鳥も悠遊 ◇◇」「夢の世や 南無阿弥陀佛 いざさらば ◇◇」(※注 この項は個人の文芸作品なのでそのままの使用はできません)

(6)古典の言葉

【補足】「わが生はわが祈りとなろう」「鳥のまさに死なんとするや その鳴くこと哀し 人のまさに死なんとするや その言うこと良し」([論語])

「此花はまことの花にあらず ただ時分の花なり」「秘すれば花なり」(世阿弥[風姿花伝])

「我之名号の春の花」(世阿弥[金島書])

「佛は常にいませども 現ならぬぞ あわれなる 人の音せぬ暁に ほのかに夢に見え給ふ」「阿含経の鹿の声 鹿野苑にぞ聞こ    ゆなる諦縁乗の萩の葉に へんしん無漏の露ぞ置く」「空より花降り地は動き 佛の光は世を照らし 弥勒文殊は問ひ答へ 法花説くとぞ予ねて知る」「観音深く頼むべし 弘誓の海に船浮べ 沈める衆生引き乗せて 菩提の岸まで漕ぎ渡る」「たんちりをんの月の影 さやかに照らせば隈も無し 佛性真如の清ければ いよいよ光りぞ輝ける」「須弥を遥に照らす月 蓮の池にぞ宿るめるほうくわう渚に寄る亀は 劫を経てこそ遊ぶなれ」「萬代を 松の尾山の蔭茂み 君をぞ祈る 常磐堅磐と」「遊びをせんとや生まれけむ 戯れせんとや生まれけん 遊ぶ子供の声聞けば 我が身さへこそ揺がるれ」[以上、「梁塵秘抄」より]

(7)  中世碑文にしるされたげじゅ

「是諸衆生 聞是法巳 現世安穏 後生善処」(この諸々の衆生は この法を聞き終わって 現世では安穏に過ごし 来世では善き処に生まれる)[法華経]

「心生大歓喜 自知当作佛」(心に大歓喜を生ぜば 自ずからまさに成仏したることを知れ)[法華経]

「光明遍照 十方世界 念仏衆生 摂取不捨」

(無量寿佛の光明はあまねく 十方世界を照らし 念仏の衆生を 摂取して捨てない)[佛説観無量寿経]

「願以此功徳 平等施一切 同発菩提心 往生安楽国」(願わくばこの功徳をもって 平等に一切になし 同じく菩提心を起こして 安楽国に往生せん)

「天眞独朗」(天の心理は独り明朗である)[摩詞止観]

「理非造作 故日天眞 証智円明 故云独朗」(理は造作するものにあらず」故にこれを 天眞という 証智は円明である 故にこれを独朗という)[摩詞止観補行]

「無影樹下風細細 瑠璃殿上月団団 頑然独露不磨勢 留与子孫万古看」(影のない樹の下に風が細やかに吹いている 瑠璃でつくられた宮殿の上に月が輝き あるがままの姿をひとりかたくなにあらわす 自然はこのような姿を永遠にとどめて 子孫にその姿をみせてくれる)[碧巌録]

(8)聖書の言葉

「凡そ生きて我を 信ずる者は 永遠に死なざるべし」

「主よ 永遠の安息を かれらに与え 絶えざる光を かれらの上に 照らし給え」

「わたしは よみがえりであり 命である」

「わたくしは よみがえりであり 命である わたくしを信じる者は たとい死んでも 生きる」

(9)西洋の墓碑銘と「死の詩」

〇「彼女は家を守った 彼女は糸を紡いだ」[ローマのある主婦の墓碑銘]

「私は地と星空の息子である 私は天空の種族の者である よく心得るがいい あなたも同じだ」[オルペウス教徒の墓碑銘]

〇「永遠の眠りに捧ぐ」「ここに憩えり」「ここに横たわりぬ」「ここに奥都城あり」「ここに眠る」(「気高く賢明なる騎士ここに眠る」「パリの市民でありし居酒屋の主人 ここに眠る」「パリの市民でありし靴屋 ここに眠る」)「かの人の霊魂が 安らけく 憩わんことを」「神よ かの人の霊魂を受け給え アーメン」「神がその恩寵によりて かの人の罪を許したまわんことを アーメン」「神がかの人より霊魂を受け給わんことをアーメン」「神がかの人を忘れぬよう祈れかし アーメン」